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「それで、どうしてわざわざ成島さんが此処へ」
成島さんも暇ではなく
何時もは電話や下の者を使って要件を伝えるのだが
本人が来るあたり相当切羽詰まった状況なのだろう。
「あぁあそうでした、そうでした」
しかし、そんな雰囲気を微塵も見せずにわざとらしく、如何にも思い出したような仕草をしながら成島さんはニタニタしたまま目を細める
「実はオヤジから呼び出しでして」
これは意外だ。
「私にですか?」
「えぇえ、どうやらうちの娼婦が独りいなくなっちまったようでして」
ほう、娼婦・・・ねぇ
「なるほど、私に関係しているということは、私の物ですか」
「流石ですね坊ちゃん話が早くて助かります」
ニヤリとこちらを見る
「名が確か――乙音という娼婦です」
「――確かに私の知っている名ですね」
しかし、なるほど、あの上級品の女が行方不明と言うのは問題だ。
なかなか働き者で客に対する接し方はとても上手だ。
多くの常連もいたはずである。
――確かにかなり損害であることは間違いない。
夜逃げか
今じゃ、ザラだな
しかし、薬付けでそんな遠くに逃げ出すことはできないであろうに
馬鹿な女だ。
私は成島さんに視線を戻す。
「では、すぐに向かいます」
要件はすんだらしく、私の返答に満足した様子で成島さんは踵を返すと右手をひらひらと振る。
「それではぁ私はこれでぇえ」
玄関近くで成島さんはもう一度こちらを振り返り
「くれぐれもお願いしますねぇ、坊ちゃん」
「え、えぇ」
笑顔のまま成島さんは少しドスの利いた声で忠告していき、今度こそドアの向こうへと消えていった。
「・・・しかしながら」
義理父は自分の囲っている場所を乱す者を極端に嫌う。
慎重でいて、綿密で、几帳面であり横暴な男だ。
今回の件もそう、娼婦の失踪にかこつけ警察共に周りを探られるのが気に食わないのであろう
そのことから、かなりご立腹の様子であることを想像するこおへ容易であった。
「ふぅ、出るか」
私はそそくさと外に出る為身嗜みを整え、義理父の元へと歩を進めるとした。
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