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どうしてだ……こんな時ぐらい、こんな時ぐらい彼女に触れたいのに。
それさえも許されない。
「あなたの戦死公報が届けられた時、何度後悔したか……あの時、ああ伝えればあなたは待つ者がいるとわかって死ねたのに。少しでも私が待っていると記憶に留めてくれたのに!何度も思ったわ……生きて帰ってきて欲しかった」
あの時、家族を見送る誰もがそう思っただろう。私は肌で感じていた。
死なないで欲しいと思うのは皆、同じだ。
「私が生きて帰ってきて欲しいと伝えたら、あなたはどんな姿になっても死ななかったでしょうか?」
声をあげて泣き出した彼女を抱きしめてあげられない悔しさと、声が届かない切なさに私の頬にも滴がおちる。
「同じだ。あの時、何を言っても私は死んでいた。日本が負けを認めた8月15日の後に戦死した。終戦宣言をしたからと言って戦争がすぐに終わる訳ではない。私の部隊に知らせが届いたのは終戦宣言から1週間後だった……私が死んだ日だ」
……泣かないで欲しい。君の笑顔が見たくてここで毎年待っているのだから。
そんな泣き顔をみたくて待っていた訳じゃないんだ。だから……。
「おばあちゃん!」
どうすることも出来なくて手をこまねいていたら遠くから少女の声が聞こえた。
「おばあちゃん大丈夫?」
少女は彼女に近寄ると背中に手を添え顔を覗き込む。
「茜……来てくれたの?ええ、大丈夫よ。今、謝っていたところよ。和真さんに」
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