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「曾おじいちゃん許してくれたでしょ?」
……曾おじいちゃん?
この子は私のことを、曾おじいちゃんと言ったのか?そんなはずは……68年だ。彼女は再婚していると思っていたが。
そんなはずは……。
いきなり現れた制服姿に髪が茶色い少女と彼女を何度も見比べた。
彼女には少し似ているとは思うが私には似ていない気がする。
「わからないわ……和真さんが聞いていてくれれば良いわね……こればっかりはわからないわ」
少女の手を借り立ち上がる彼女に向かって早口で話しかける。
「もういいんだ。お互い様だ。私も君に伝えられなかったんだ。だから……もう!」
何とか私の言葉が届いて欲しい。
それだけだった。同じことを何回も何回も言い続けた。
でも、それも叶わぬ夢。
「おばあちゃん、曾おじいちゃんの名前これ?」
少女が、彫られている私の名前を見つけ指でなぞった。
「茜だめよ。むやみに触るものではないわ……日が暮れて来たわね。もう戻りましょう」
「はーい、あ……百合おばあちゃん!」
雲が沈みゆく太陽を隠している中、少女がやってきた道を小走りでかけて行く。
その先に手を振っている女性の姿が見えた。
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