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「和真さん、私達の子の百合子と曾孫の茜です。あなたが戦死した知らせが届いた次の日にわかったの……孫は今日は仕事でこれなかったわ」
やはり私の子が?……。
死んでいるのにと自分でもわかってはいるが動揺は隠せない。
「君は本当に驚かせてくれる」
思いっきり声をあげて笑った。
そうだ、彼女はいつも私を驚かせてくれた。しっかりしていて、お茶目な一面を持っている彼女だからこそ惹かれた。
彼女となら怒ったり言い合いながらも、笑いながら幸せな人生をおくれるとわかっていたから。
「……また来ますね」
名残おしそうに手を合わせられる。
「もう行くのか……次はまた来年。寂しいな」
本音が口から出てしまう。
待っていたのは68年間。会えたのはほんの30分ほど。寂しさがこみ上げる。
「おばあちゃ~ん早く行こう。暗くなるよ」
少女が早くと彼女を呼ぶ。
「あの子は本当に落ち着きがないわね。誰に似て……ああ、和真さんに似てるわ。あなたも落ち着きがなかったから。それに、私のことを、おばあちゃんと呼ぶのも止めて欲しいわ……」
「それは聞き捨てならない。私はいつも君を楽しくさせようと必死だっただけだ。あの子のようにせわしなくはないよ」
「もう行くわ……」
風が吹き込み雲が流れていく。
すると、不思議なことに沈みゆく太陽の光とは反対にもう一つ、上りゆく白い月が私達を照らした。
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