トワイライト

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彼女の柔らかい手も私を見上げる優しい眼差しも、そして、その声も……大好きだ。 「……もう苦しまなくていい。私も君に伝えたかったんだ、あの時、生きて帰ってくるからと」 戸惑ったのは一瞬、次の瞬間いつまで、この状態が続くかわからなくて早口に捲し立てる。 「ありがとう。子供を産んでくれて……本当にありがとう。一人で大変だっただろう」 こんな言葉じゃ何も伝わらない。言葉では軽すぎる。あの時代のあと生き抜くのは男でも大変だったはず。 それを君一人で子供を育てあげるのは並大抵の力では足りない。苦労したはずだ。 「今の言葉で苦労なんて忘れてしまいました。よく戻ってきて下さいました」 彼女の手を取り握りしめる。 「あなたに、こんな風に手を握ってもらったことも初めてだわ」 泣きながら笑う彼女に同じく泣きながら笑い返す。 「私、ずっと言いたかったことがあるの。あの時、言えなかったことが。あの時本当は――――」 彼女を引き寄せ抱きしめる。 「わかっているよ。さっき聞いた。もう時代は変わったんだ。言わなくても良いよ」 「和真さん……」 きよ子が嗚咽を堪えながら泣き続ける。 「でも、私は言わせてくれ。私の声は君には届いていないようだったから……あの時言いたかった。必ず、君の元へと帰ると」 .
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