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68年ぶりに伝えることが出来た。肩の荷が下りたように心も軽くなった気がした。
さらに激しく泣く、きよ子の髪を撫でる。
空の光が、だんだんと小さくなり太陽が地平線へと消えていく。
月も雲へと隠れ光が小さくなる。
――――もう時間なのか。
太陽と月が私に向かって微笑んだ気がした。
「きよ子お別れだ。もう苦しまないでくれ。ずっと見守っているよ」
そう言うと、きよ子が顔を上げる。
「ええ、もうすぐ私もそちらへ行くと思いますから迷わないように迎えに来て下さいね」
茶目っ気たっぷりに伝えてくるきよ子に声を上げて笑う。
「ああ勿論だ。その前に、お盆をむかえる度にここへと来るよ。そして皆を見守る。これからは娘や孫たちも」
「あの子達も見えているかしら?和真さんのこと」
視線を娘達に向けると母の腕を掴み孫の茜が何かを言っているようだ。
「……見えているよ。私の娘達だ」
きよ子は大きく頷いた。
「きよ子……行って来ます」
きよ子が驚いたように目を大きく見開く。
もう時間だ。
だから、あの時言えなかった、伝えることが出来なかった言葉をかける。
「行ってらっしゃいませ。いつまでも待っております」
最後に見たきよ子の笑顔を脳裏に焼き付け、私もまた笑った。
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