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「綺麗な海だ……」
ぼそりとつぶやいた言葉は誰にも聞かれることなく空へと消えていく。
目の前には、真っ青な絵の具を、ぶちまけたような鮮やかな空と海が広がっている。
水面には真夏の太陽が容赦なく照りつけ、足元のアスファルトからは熱が放たれているようにも思えた。
その熱さは、忘れがたい頭の片隅に仕舞い込んでいた記憶を呼び起こす。
「……今年も平和だ。あの時、私達が願っても手に入らなかった世界だ」
海を背に造られた合祀碑に手を合わせる。黒い石で仰々しく造られたそれには銘文が刻まれていた。
戦時中に散った若者達の名前だ。
1945年8月15日。この日付を聞き、今の若者は何人が終戦記念日だと答えられるだろうか?
お国のためと命をかけて散っていった記憶を今の時代の若者は何人間違えずに言えるだろうか?
「……来たよ。今年は会えるだろうか?」
しゃがみこみ、合祀碑に刻み込まれている学友の名前を指でなぞる。
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