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「今年で68回目の終戦記念日。戦地へ赴いたのは昨日のことのように思える……忘れたくても忘れられない生き抜いたあの日……」
思い出したくなくて記憶を押し込めるように手を握りしめ立ち上がる。
日が高く倒れるような暑さのためか周りには人一人いない。
「皆、墓のほうか?ここへ来るのは日が落ちて涼しくなった頃だろうか……確かに、この暑さはきついだろうな」
合祀碑のある海とは反対側へと歩き出すと少し高くなっている石壁へと腰かける。
「眩しいな……あの日も暑かった」
手を額にかざし目を細め空を見上げる。
暑さを誘う蝉の声と波の音。ときおり子供達の声が風に乗って聞こえてくる。
「やはり、今年も会えないか……」
時間は刻々と過ぎ去り、合祀碑の影は向きを変えた。
「いつになったら君に会えるのだろうか?……いつになったら……」
彼女を思い出す。
赤紙(臨時招集令状)が来た時に送り出してくれたあの時を。
――私は気づいていた。彼女の笑顔とは正反対に、手が震えていたことを。
でも、気づかないふりをした。あの時、あの状況ではああするしかなかった。
お国のためと皆が喜んでいた、あの時代では――――。
昔を思い出していると、ふと人の気配を感じ立ち上がった。
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