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時間が過ぎ去ったと言っても、まだ太陽は出ていて暑さも変わらない。
立ち上がり足音がする方へと体を向ける。
海に沿うように一直線に施工してある道の先は、逃げ水のようにゆらゆらと揺れ現実か夢かの境がわからなくなる。
その揺れる中を、日傘をさしながら歩いてくる着物姿の女性の姿が見えた。
「あれは――――まさか」
次の言葉が見つからず、暴れ出すほどうるさい鼓動に胸をおさえ合祀碑の前で彼女を待った。
68年間待ち続けた彼女を。
1歩また1歩と彼女が近づいてくる度に喉に渇きを覚え唾を飲み込む。
別人かも知れないと心のどこかで疑いながらも、彼女であって欲しいと願い続けながら。
緊張しながら女性が来るのを待つと下駄の独特な足音と帯につけている鈴の音がちりんと耳に届く。
ああ…………彼女だ。
彼女が約束を守ってくれた。
「……待たせてごめんなさい。こんなにも遅くなってしまって。来る勇気がなかったの……本当にごめんなさい」
合祀碑の前まで来ると懺悔するように頭を下げる。
「いいんだよ。来てくれただけで私は満足だ」
頭を下げ続ける彼女に目を細める。
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