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月日は思っているよりも残酷だ。
彼女と別れたのは18の時。それから68年。
細くなった腕、小さくなった肩、深く刻まれた皺は私がいない間に苦労を重ねた証。でも君の美しさは昔と同じ。
背筋を伸ばし上品に着物を着こなす所作は、私が愛した君となんら変わりはない。
悲しい時に目を伏せ何かを耐えるように飲み込むその姿もあの時のまま。
「やっとで会いに来れました……夏になる度に来なければと約束を守らなければと苦しかった。でも、ここに来る勇気がなかった……待たせてしまいましたね」
今にも泣き出すのではないかと少し慌てる。
「そんなに自分を責めることはない。私は君が来てくれると信じていた。ずっと――」
励ますように彼女の隣に立ち合祀碑を見上げる。
昔の学友達が見守ってくれているような気がした。傍にいたなら囃し立てていたことだろう。
「ここに来なかった理由を言ってもいいかしら?」
彼女は線香と蝋燭を取り出しそれぞれに火を付ける。
しばらくすると煙が一筋空へと向かい伸びていく。
「私は、あの時笑顔であなたを送り出したわ。お国のために頑張って下さいと……」
「ああ、私も覚えているよ。村中が送り出してくれたね」
線香の煙を眺めながら、あの時のことを思い出す。
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