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君には素直には言えないけど、心の中では毎日繰り返していた。そして、これからもずっと変わらない。
「あなたを誇りに思います。お国のために頑張って下さい」
驚きながらも彼女に笑顔で頷く。
彼女の手が震えていることに気が付いたから。
これが本心ではないと手ぬぐいを渡された時に、他人に見られないように握られた手から感じた。
何度も何かをいいかけようとして口を噤む彼女に笑顔で頷く。
「あの岬にいつも君がいることを願っているよ。私はそこに帰るから」
私と彼女にしかわからない暗号めいた台詞に彼女の目が潤みだす。
「……はい、必ずあの場所へ参ります」
私と彼女が初めて会った、あの思い出の海岸。
「……では、行きます」
これが最後ではないと、また会える日が来ると、そう伝えるために力強く。
ゆっくりと離された手は、夏だというのに冷たく、ひどく泣きたくなった。
空を見上げ彼女に背を向ける。
必ず、君の元へと帰ってきます。
言葉にすることが出来ない想いを何度も心に深く刻みこみながら。
少しでも彼女に伝われば私は幸せ者だ。
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