―前編―

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「はあ、つっかれた」 玄関のドアを閉めるなり、私は大きくため息をついて上がり口に座り込んだ。腕時計に目をやると、時間はもうじき午前0時になろうとしている。 「まったく、こんな時間まで残業させるなんて、こき使い過ぎだっての。そのうち絶対誰か過労死するって」 私が勤めているのは印刷関連の会社で、あまり大手ではないが、かなり忙しい。不況で従業員数を減らしているということもあり、まだ入社1年目の私もめいっぱい仕事を割り振られ、残業の連続の日々だった。 「とにかくお風呂に入って早く寝たい……けど、これ、なんとかしないと……」 振り返って見回した1DKの部屋の中には家具が雑然と置かれ、その間に段ボール箱が所狭しと積み上げられている。午前中、引越し業者にとりあえず運び入れてもらった荷物だ。
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