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「元栓閉めたから」
男が再びドアから顔を覗かせた。若い男だった。私より少し年下だろうか。
「あ、あ……、ありがとうございますっ!」
お礼を言って立ち上がろうとしたが、膝に力が入らない。
「ドライバーある?」
私の興奮状態とは対照的に、男の声は冷静で淡々としていた。
「台所の水道だろ? 下の止水栓閉めれば他の水道は使えるから」
「ドライバー……。持ってないです」
「……オレも持ってない」
二人してしばらく顔を見合わせてしまった。
「この時間じゃ、管理会社も無理だな」
男が左手首に目をやった時、ちらっと高級そうな腕時計が見えた。
そういえば、着ている服も高そうで派手なスーツで、開いた首元には金のネックレスが光っている。
髪はエアリー感を出して軽くウェーブの掛かった青系の紫に染まっている。キレイに整えられた眉。鼻筋の通った顔は繊細で綺麗という言葉が似合う。どう見ても、夜の仕事の男っぽかった。
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