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(ホスト? でもなんでここに……?)
「それじゃ、今夜はもう水は使えない」
「え……、じゃあお風呂どうしよう。……あ、それより部屋の中が水浸し……」
再び不安で涙を滲ませた私を、男はしばらく見つめていたが、やがてぽつんと言った。
「うちに来るか?」
「え……?」
「オレ、これから出勤だから。朝まで帰らないし、風呂も勝手に使ってくれ」
「え、え……。あのっ、あなたは……?」
親切で言ってくれてるんだろうけれど、いきなり知らない男から家に来いと言われても。それにこの人はいったい誰で、今さらだけどなんでここに……?
「隣の朝霞だ。これ、合い鍵。じゃあ」
それだけ言って、男はスタスタとエレベーターに向かって歩きだした。
「あのっ、朝霞さんっ……!」
慌てて私がなんとか立ち上がり、廊下に出た時には、エレベーターのドアは閉まっていた。
私は、渡された部屋の鍵と隣の朝霞の部屋、そして降りていくエレベーターの階数表示を何度も見返しながら、しばらくその場から動けなかった。
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