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私は布団から出て恐る恐るダイニングキッチンとの境の引き戸を開けた。
「朝霞さん!?」
足元の床に、スーツの男が転がっている。確かにそれは朝霞が着ていたものだ。そばには缶コーヒーが転がっていて、零れ出た茶色の液体が広がっている。
「朝霞さん、どうしたんですか?」
慌てて駆け寄ると、ムッとする酒の匂いが立ち込めていた。
「あ、まだ起きてたの? えと、何ちゃんだっけ?」
むくりと顔を上げた朝霞の表情はへらへらと笑っていて、とても昨夜の冷たいほどに綺麗だった男と同じ人間とは思えなかった。
「大丈夫ですか? とにかく立って」
名前を彼に告げてから肩を貸すように立ち上がろうとする。
「マリーちゃんか。オレは璃鈴だよ、よろしくね。えーと、名刺がここに……」
私に支えられて立ちながら朝霞はポケットを探り、その動作によってフラフラとよろけた。
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