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切り裂いた布を自分に巻き付けた。
小型船を港に繋いでおく結び方。
どれだけ負荷をかけても解けないが、結び目の一方向から引くとするりと外れる。
身体が穴に引き寄せられてよろめく。
成人女性1人を支えているのだから当然の重み。
意を決して僕は壁に手をかけた。
外に出る。
弓恵さんを少しでも地上近くまで降ろす為に。
ガラガラガラガラッ。
固い何かが落ちていく音が聞こえる。
怨嗟の雄叫びに似た音が熱風に乗り蠢いている。
もう吹き抜けのあった廊下は、人が近寄れるものでは無くなっているだろう。
背後で炎が工場を蹂躙する気配を感じながら、上半身を穴に通した。
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