あと1時間

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蛍光灯が煌々と光ってる 眠る気にもなれなくてケータイサイトのゲームで時間を潰す 私はなにを待ってるんだろう なぜか逸る胸 なぜか焦る心 なぜか憤る性 普段なら楽しいはずのゲームが今日は白けている ケータイをベッドに放り投げてキッチンに向かう 冷蔵庫にこの間トシが持ってきた缶ビールを見つけた 手をかけて止めた こんなもの飲みたくない ゴミ箱に未開封の缶を投げつける 鈍い音がした 野菜室の奥の白い袋に手を伸ばす 目立たぬように置かれた袋の中にはネットで取り寄せたシャンパンが入っていた 高校生の頃に親と行ったフランスで本物のシャンパンに出会った その頃から一番好きな飲み物はシャンパンになった 少ない給料からやっと貯めて買った1本 ひとりで特別な日に飲むために取っておいた ラベルを覗き込むと知らず顔がほころんだ ちゃぶ台の真ん中に置く 私だけのシャンパン 少しだけ心が軽くなった気がした キャップに手をかけてふと誰かが囁いた 『コンナ気持チノママ飲ンデイイノカ?』 心の底から毒ガスが侵入する 苦しい 息がうまくできない 嗚咽のような呼吸のせいで涙が滲む ボトルが倒れて床に落ちた 苦しい ボトルとは反対側に私も倒れた 自分を抱き締めて泣いた 頭の中がごちゃごちゃする 心の中がぐちゃぐちゃする 全てが私に牙を向く 3月の末になって内定を取り消した会社 私を捨てたくせに求めるケン 大卒なのにバイトしかできない不況 別居中の妻の存在を隠していたトシ すべてが私を追い立てる 誰も私を必要としてない 私じゃなきゃいけないわけじゃない 誰の特別にもなれない どうして私はいつも使い捨てなの… きっとこうしてひとりでひっそりと年をとっていくんだ 飲めないシャンパンだけが増えていくんだ こんなのいや
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