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さすがにこの時間の住宅街は人がいない
ミュールの音だけがこだまする
シャツを羽織っただけの姿で、LEDの白々しい街灯をくぐり抜けアパートから歩いて3分のコンビニに着いた
中にはいつもの店員がひとりだけいた
客もいないのに電気だけが空回りするように眩しい
自動ドアが開くと同時に放たれる「いらっしゃいませ、こんばんは」
店員は私を二度見した
たまにトシと夜中にくるといるお兄さんだ
背が高く、20代後半くらいのシマウマみたいな男
黒縁メガネとボーダーのシャツでいかにもアジカンが好きそう
お兄さんは何度もメガネを押し上げてこちらをちら見する
無視して店内を歩く
ミュールが床を打つ音が響く
BGM代わりのラジオではDJが笑ってる
アメニティの棚の前までくると脚が止まった
可愛いシュシュがある
ピンクに白いストライプが入ったシュシュ
ピンクのラメがストライプを縁取っている
可愛い
欲しかった
けど伸ばされた手は2段下にあるコンドームの箱を鷲掴んだ
赤いミュールはレジに向かう
レジの向こうで店員が必死に視線を逸らす
カウンターにコンドームと板チョコを置いた
「買いたいわけじゃないの。財布ないし」
私の告白に店員は視線を逸らし損ねた
「気になる?」
私は胸元に両手を開いて置いた
シャツは第3ボタンまで開けていた
指先が滑らかな冷たい肌に触れた
お兄さんは固唾を飲み凝視してから私の目を見た
「冗談はやめてください」
冷や汗混じりのか細い声
「冗談だと思う?」
指先が4つ目のボタンに触れた
お兄さんは泣きそうな顔で答えを求めた
言葉を続ける代わりにカウンターの脇からお兄さんの方へ入り込んだ
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