七回~最終回

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その後、七回、八回と両者無安打で九回に突入した。 九回表。 能村が智弁和歌山を0に抑える。 九回裏。 盛岡東の高橋監督がベンチ前にメンバーを集め、ハッパをかける。 バッターは七番加藤。 初球から打ちにいく。 が、小さなサードフライに倒れる。 八番田中。 二球目を捉える。 ライト前に抜ける。 チーム初安打である。 九番高城が送り、ツーアウト、ランナー二塁。 一番又村が三球目のカーブを捉える。 打球はサードに転がる。 サードは冷静に掴む。 そのまま一塁に投げる。 が、又村の足の速さには敵わない。 ツーアウト、ランナー一塁、二塁。 二番の宮田が敬遠され、ランナー満塁。 ここで、高橋監督が動く。 代打佐藤がコールされる。 マウンドの上の智弁ナインが驚いた顔をする。 三番に変えて、代打である。 驚くのも無理はない。 その上、三番は能村である。 同点で終わった場合、投げる人間がいなくなるのである。 佐藤がゆっくりとバッターボックスに向かう。 「「「「「プレイ」」」」」 球審の声が響く。 初球。 外角低めへのストレート。 見逃してワンストライク。 二球目、三球目、四球目、五球目とファールで粘る。 九回裏、二死満塁。 0対3ノーボール、ツーストライク。 六球目のストレートが甘く真ん中に入る。 鋭いスイングがボールを捉え、快音を残し、ボールはレフトスタンドに向かって伸びていく。 レフトが全力で追いかける。 フェンスによじ登る。 左腕を伸ばす。 時間がゆっくりになる。 音が止まり、自分の鼓動と、鋭いスイングがボールを捉えた音だけが響く。 伸びた左腕の その先のグラブの そのまた上を 白球が 通り過ぎる。 ボールが芝生の上を跳ねる。 本当に音が止まり、何も聞こえなくなる。 一瞬置いて、甲子園が歓声に包まれる。 崩れ落ちる背番号1。 跳び跳ねる背番号10。 4対3。 九回裏、二死満塁、ツーストライクから、代打佐藤の逆転サヨナラ優勝満塁弾。 最高の幕切れで、甲子園は閉幕した。 2011年、8月20日、午後3時20分の事だった。
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