プロローグ

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「何だとこの野郎!」 矢形がまた草壁に突っ掛かるが、出した拳をいなされ、逆に関節を極められる。 さっきの威勢はどこへやら、ギブギブ、と情けない声を上げている。 彼も喧嘩っ早いが、その腕っ節の弱さは帰宅部の女子生徒以下である。 2人、というかクラス全員から「口先だけのチビ」というレッテルを貼られているのだ。 頃合いを見て、ぱっと草壁は手を離し、 「俺らもそろそろ帰ろうぜ。せっかくの夏休みなのに、こんな事で時間潰すのは嫌だわ」 と2人を誘う。矢形の恨みの詰まった視線はスルーしたらしい。 「夏休み」という単語を耳にし、草壁に視覚の全てを注ぎ込んでいた矢形は時計に目を移した途端、すぐさま鞄に荷物を詰め込む。 瀬戸に至っては、準備を終えいつでも帰宅できる状態である。 学生にとって、夏休みほど自分の時間が持てる機会は無いだろう。 彼ら3人は部活に所属していない。 すなわち自由である。 フリーダムである。
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