コンクリートの柱

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◇ 冷たい床の上で目を覚ました。 ――厭な夢を見た。 あれから十年以上経つというのに、未だにこびり付いたまま離れない記憶。 兄の死を思い出していた。 重たい頭を無理やり持ち上げる。 頭蓋骨にかかる運動エネルギーがそのまま痛みに変換されているような気分になった。 数秒間、目を閉じ気持ちを落ち着かせる。 体中が痛い。 床の上で寝たせいで、全身が固まってしまったようだ。 身体を起こし、ベッドの上を見る。 ノドカの姿はなかった。 既にアルバイトに行ったようだ。 ダイニングへ向かうと、テーブルの上に冷めた目玉焼きがあった。 ノドカが用意してくれたものだ。 横にレタスが添えられている。 僕はトースターでパンを焼き、コーヒーを淹れた。 いつものようにテレビをつける。 淹れたばかりのコーヒーをすすりながら、朝のニュースを見る。 テレビから株価が流れる。 その数値が、その推移が一体何を表しているのか、未だに僕にはわからない。 天気予報。 今日は晴れ。 週間予報も晴れマークが続く。 喜ばしいことではあるのだが、こうも画面一面に晴れマークが自己主張してくると、なんだか押しつけがましい感じがして少しうんざりした気分になる。 むかし、そんな話をノドカに話した時、彼女は「リョージ君って、変わってるね」とおかしそうに笑っていた。 全国のニュースが終わり、地方ニュースに切り替わる。 地元の地方局のアナウンサーが神妙な面持ちで報道を伝える。 それは昨晩に起きた、不可解な事件、あるいは事故なのか、そんな内容のニュースだった。 昨晩の段階では身元不明とされていたその被害者の名前を聞いた瞬間、僕は自分の耳を疑った。 それはあまりにも僕に関わりのある人物の名前だったのだ。
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