第序章 回想

2/10
前へ
/80ページ
次へ
「お父さん遅いね。」 拗ねたようにお母さんに言ってみると、もう少ししたら帰ってくるわよと優しい微笑みを見せてくれる。 そんないつもの会話の途中、ふと電話がメロディーを流し始めたので、お母さんは手を拭きつつそちらに小走りしていった。 僕は 電話がお父さんからかもしれないと思い、期待に満ちてお母さんの方をじっと見つめた。 しかしいつもなら電話でも明るいお母さんが、最初に返事をしたきり黙り込んでしまい、だんだん顔色が青くなっていくのを見て、僕はなにか嫌な予感がした。 そしてお母さんは、今から向かいますので、と言って電話を切ると、僕に急いで支度をするように言った。 「どこへ行くの?」と訊いたけど、口を固く結んだまま答えてくれなかった。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加