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「お父さん遅いね。」
拗ねたようにお母さんに言ってみると、もう少ししたら帰ってくるわよと優しい微笑みを見せてくれる。
そんないつもの会話の途中、ふと電話がメロディーを流し始めたので、お母さんは手を拭きつつそちらに小走りしていった。
僕は
電話がお父さんからかもしれないと思い、期待に満ちてお母さんの方をじっと見つめた。
しかしいつもなら電話でも明るいお母さんが、最初に返事をしたきり黙り込んでしまい、だんだん顔色が青くなっていくのを見て、僕はなにか嫌な予感がした。
そしてお母さんは、今から向かいますので、と言って電話を切ると、僕に急いで支度をするように言った。
「どこへ行くの?」と訊いたけど、口を固く結んだまま答えてくれなかった。
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