第序章 回想

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僕はなにも分からないまま急いで支度をして、いつのまにか呼んでおいたらしいタクシーに乗り込んだ。 お母さんは運転手さんに、行き先が僕に聞こえないように伝え、なにか察したらしい運転手さんも頷くだけで特に何も言わずに車を走らせだした。 数分後、タクシーがついた場所は大きな病院の前だった。 僕は状況がまだいまいち呑み込めないまま、ある病室の前まで連れて行かれた。 そこにはお医者さんが待っていて、お母さんに何か言うとともに首を横に振った。 その瞬間お母さんはその場に泣き崩れて、僕を強く抱きしめながら衝撃の一言を発した。 「お……お父さんが………死んじゃった…。」 僕は驚いた。 お父さんが死んだことについてではなく、お母さんにだ。 お母さんはいきなり何を言い出すのだろう? だってお父さんは、 “ 僕を見ているじゃないか” 『…おいで』 お父さんが呼んでる! 僕はお母さんの腕の中から抜け出し、お父さんの寝ている横に駆けよった。 お母さんが何か言おうとしたが、僕は気にせずお父さん の顔に手を当てて、なあに?と尋ねた。 お父さんは、そっと僕の手を掴み腕を口元に引き、 そして………… 噛みついた。
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