第序章 回想

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あれから10年たった。 あの時、父さんが俺の右腕に噛みついた後。 母さんと医者が血相を変えて父さんを俺から引き剥がそうとしたが、父さんの歯は深々と俺の腕に食い込み、全く離れなかった。 当時の俺は泣き叫び、母さんは『お願い!やめて!』と悲鳴を上げていた。 騒動を聞き、何人か助けに来てくれたが無駄だった。 無理に引っ張ると、逆に腕に強く食い込むようで、激痛が襲った。 あまりの痛さに気絶すらできず、ただ泣き叫んでいた気がする。 俺の腕に噛みついて約5分、どれだけやっても離さなかった父さんの口は突然、何事もないかのように離れた。 そして父さんは、元々死んでいたみたいにぐったりと倒れ、今度こそ動かなくなった。 ようやく解放された俺は、そのまま気絶し、医者達によってすぐに手術室に運ばれた。 聞いた話によると、骨があと少しで見えるというほど深く噛まれていたらしく、俺の腕には何十針も縫った跡がある。 しかし、噛まれている間には出血が止まらなかったのに、手術室に運ばれている時にはなぜか既に止まっていたという。  
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