16478人が本棚に入れています
本棚に追加
/861ページ
「お前、方向音痴なの?いくら初めて来た場所だからって、真逆って」
「だって、同じような建物ばっかりなんですもん。どっちから来たのかなんて、分かんなくなっちゃいますよ」
「いや、ちょっと考えれば分かるだろ」
「分かりません」
ムウ、と頬を膨らませて先生に反論する。
先生の呆れた物言いに抗議の視線を向ける。
……けれど、油断するとすぐにその頬は緩んでしまう。
――だって。
あたしは視線を、自分の手元に落とした。
手。
あたしの手。
先程、正反対の方向に歩き出したあたしを引っ張った先生は、そのままその手を握ったまま歩き出したのだ。
手、繋いでる。
へへ、と心の中でにやける。
これは、先生、気づいてないのかな?
いや、先生に限って、そんな間抜けなことする?
じゃあ、気づいていて、ほどかない?
――なんてアメとムチ。
相馬君、吉岡君、ごめんなさい。
夜中でも明るい異国の街中で、1人にやけながら歩いているあたしを許して。
明日からは、絶対に、気を引き締めて頑張るから。
最初のコメントを投稿しよう!