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「……えー、2年生というのは、学校にも慣れてきて中だるみの時期とよく言われますが……」
教壇の上でお決まりの文句を言っているのは、2年E組担任の坂口先生。
通称グッチ。
50代半ばのおじさん先生。
決して評判の悪い先生ではない。
むしろ、授業は丁寧で分かりやすいし、冗談も通じるいい先生。
……なんだけど。
それでも今のあたしのこの落胆を取り払えるほどの存在ではない。
教壇で、今年1年の授業カリキュラムの説明をするグッチをぼんやりと見つめながら、頭の中は石田先生のことでいっぱいだった。
つい数週間前までは、あの場所に立っていたのは石田先生だったのに……。
石田先生……。
「……マイラブ……」
「……ん?どうしました、結城。何か言いました?」
「――えっ!?あ、いや、なんでもないですっ」
無意識に心の声を呟いてしまっていたらしいあたしの声を敏感に拾ったグッチ。
慌てて首を振った。
グッチ、生徒の小さな叫びも聞き逃さないとは……いい教師。
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