第二十五章

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土方の背中を目で追ったまま、閉まった戸をぼうと見つめる。 宮古湾海戦の流れを思うと、作戦を立てる姿に胸が痛んだ。 甲鉄艦を入手すれば、榎本艦隊は最強の部隊になるだろう。 もしかすると日本は、二つに分かれていたかもしれない。 だけどこの作戦は失敗に終わる。 だから現代があるのだ。 「ねぇ、鉄くん……二十日までに相馬さんをここに呼んで欲しいな。どうしても話したいことがあるの」 「……理由を説明しろよ」 「私、部屋から出れないから」 「そうじゃなくてさ、出来ることなら協力するって言っただろ」 宮古湾海戦の概要を簡単に説明した。 箱館を並んで出航した三艦は、暴風雨によってはぐれてしまう。 蟠竜丸が合流できたのは撤退後。 高雄丸はエンジンを故障させ、箱館に戻る途中で敵に捕まるのだ。 「結局、作戦を実行するのは回天丸の一艦だけ。あとの二艦は参戦すらできない」 「何だよ、それ……」 「攻撃から撤退まで僅か三十分。その間に多くの人たちが死んでいくの」 「副長さ……今頃、荒井さんのところで幹部たちと話してるよ。くそっ、どれもこれも骨折り損かよ」 私の事務的のような説明に、鉄之助は苛ついた言い方をした。 おはしょりに指を突っ込み、下腹部をさすりながら息を吐く。 ……私だって辛いんだよ。 今後のことを考えた不安と、生理前の腹痛で自分も苛々していた。 「だったら私を責める? 土方さんの命の為なら、回天の艦長だって見殺しにするんだよ」 「…………」 「土方さんは回天丸に乗るの。相馬さんと野村さんを連れていく」 「教えてくれ、副長も甲鉄に斬り込むのかよ!? それなら俺も一緒に……」 「ううん、回天丸から斬り込み隊の指揮を執るの。それに今回の戦力に、鉄くんの名前はないよ」 戦力外だと意味を解釈し、鉄之助は不機嫌に眉を顰めた。 土方への想いに感謝して頬を緩める。 何故だと憤った鉄之助に、私がここにいるからだと言ってやった。 甲鉄艦へ移乗するには、三メートルの高さを飛び降りることになる。 去年の足の怪我が原因で、土方は斬り込み隊には参加できない。 土方は宮古湾から無事帰還する。 歴史通りなら心配はないし、私が首を突っ込むことではなかった。 「相馬さんが腕を怪我するの」 「……相馬さんを助けるってことか」 「結果はそうなるんだけど……私ね、未来が変わるか確かめてみたいの」
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