第二十五章

60/81
前へ
/2031ページ
次へ
考えていたのは土方の最期のこと。 やはり未来を変えてしまうのが、手っ取り早く確実だと思っていた。 だけど私にそんな力があるだろうか? この時代で生きてきた五年間に、私は何を変えられただろう。 何の確証もないまま、土方の最期に一発勝負なんて出来なかった。 未来がわからなくなると困るため、どちらにせよ今は手が出せない。 鉄之助には黙っていたが、野村は撤退に間に合わず死亡するのだ。 相馬の怪我と野村の命を助けるだけ。 歴史までは変わらないはず。 とにかく私は、未来を変える力があるのかどうかを確かめたかった。 もしそれが可能であるなら、土方が死ぬ数日前に行動を起こそう。 そしてそれが不可能なら、私はきっと身代わりになることを選ぶだろう。 「結羽さん、何考えてるの?」 「ううん……相馬さんのことお願いね」 縁側から夕焼け空を見上げた時、土方が部屋に戻ってきた。 激しい足音とともに、大きな怒鳴り声が背中に突き刺さる。 「さっきからどういうつもりだ!? 余計な口出しするなって言っただろうが!」 「どうしてそんなに怒るの?」 「お前、自分がどうなったのか忘れちまったのかよ!?」 私にとっての最大の敵は、土方なのだと身に沁みて思った。 未来を変えようとする私と、それを何としても避けようとする土方。 一緒に居れなくなるなら、記憶なんて失いたいくらいだよ。 夕日を背に振り返った途端、土方は呆れてため息をついた。 「顔を洗って来い。怒る気も失せる」 「土方さんが傍にいてくれたら、私の記憶には何の問題もないんだよ?」 「それで済むのか? 目の前から突然消えてみろ……お前だけじゃねぇ、俺はきっとその日から何も見えなくなる」 茜色に染まった瞳を見つめ返す。 なぜか口論には発展せず、土方は口元に笑みさえ浮かべていた。 「私は未来を知ってる。このままで私に何を信じろって言うの?」 「総司は生きてる」 「多分でしょ、連絡もない」 素っ気なく言い捨てると、土方の横を通り過ぎて足を止めた。 鉄之助は立ち入ることも出来ず、背中合わせの二人を見つめていた。 「土方さんは蟠竜丸に乗るんでしょ?」 「……何故だ?」 「気を付けてって言おうとしただけ」 畳に伸びた固い影を踏みつけ、思わず背中越しに嘘を言った。 そして土方もまた、柔らかな西日に目を細め平然と嘘で答えた。 「恐らくそうなるだろうな」
/2031ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8066人が本棚に入れています
本棚に追加