第二十五章

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前を歩く鉄之助に目を向ける。 八つも年下とは思えないほど、私には広くて大きな背中だった。 数日前のことを思い起こす。 鉄之助のおかげで、箱館を出発する直前に相馬と話が出来た。 『相馬さん以外に頼める人がいないの……お願い、土方さんの側から絶対に離れないで』 『あぁ、約束する……絶対だ。だからほら、いつもみたいに笑って副長の帰りを待つんだ』 思わず胸に飛び込むと、相馬は両手を上げたまま照れ笑いを浮かべた。 心配するなと何度も励まされ、私はそれに笑顔で答えたのだ。 ただ私が守ろうとしたのは……土方ではなく相馬だった。 相馬なら必ず約束を守ってくれる。 土方の側にいるということは、斬り込み隊には参加しないということ。 そしてこれまでと同じく、土方は二人を一緒に行動させるはず。 板橋で処刑を免れて以降、相馬と野村は苦楽を共にしてきたのだ。 「野村さんのことはよく知らないんだけど、相馬さんとは仲が良いよね?」 「よく一緒にいるけどね……あっ、もう着いてるよ! そこで待ってて」 「あっ、待って! 私、絶対に怒られるからね! 助けてよ、お願いだよ!」 鉄之助の向かった先には、下船した男たちが大勢集まっていた。 くたびれた回天丸と蟠竜丸が、のっそりと背後に浮かんでいる。 その集団の中から、光にも勝るほどの速さで土方を見つけ出した。 自分の能力に驚きながら、土方の無事をしっかりと目で確かめる。 ……相馬さん、どこだろう? 土方は多くの部下を従え、鉄之助に気付いてこちらに振り返った。 表情も視認できない距離だというのに…… 鋭い眼光に射すくめられ、その場に引っくり返りそうになった。 「お、帰りなさい……どうしても買い物に行きたくて、でもその前に土方さんに……」 「おう、鉄に聞いたところだ。あまり人に見られるな、こっちに来い」 木の陰まで腕を引っ張られていく。 買い物へ行きたかったのは、言い訳ではなく本当のことだった。 あれ……怒ってないのかな? また墨が付いているのかと思い、顔を触りながら土方を見上げた。 「何が欲しいんだ? 買って帰ってやる」 「い、いい……お馬だもん」 消え入るような小さな声で言った。 ずっと使っていた月経帯を、作り直すか買い替えたかったのだ。
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