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前を歩く鉄之助に目を向ける。
八つも年下とは思えないほど、私には広くて大きな背中だった。
数日前のことを思い起こす。
鉄之助のおかげで、箱館を出発する直前に相馬と話が出来た。
『相馬さん以外に頼める人がいないの……お願い、土方さんの側から絶対に離れないで』
『あぁ、約束する……絶対だ。だからほら、いつもみたいに笑って副長の帰りを待つんだ』
思わず胸に飛び込むと、相馬は両手を上げたまま照れ笑いを浮かべた。
心配するなと何度も励まされ、私はそれに笑顔で答えたのだ。
ただ私が守ろうとしたのは……土方ではなく相馬だった。
相馬なら必ず約束を守ってくれる。
土方の側にいるということは、斬り込み隊には参加しないということ。
そしてこれまでと同じく、土方は二人を一緒に行動させるはず。
板橋で処刑を免れて以降、相馬と野村は苦楽を共にしてきたのだ。
「野村さんのことはよく知らないんだけど、相馬さんとは仲が良いよね?」
「よく一緒にいるけどね……あっ、もう着いてるよ! そこで待ってて」
「あっ、待って! 私、絶対に怒られるからね! 助けてよ、お願いだよ!」
鉄之助の向かった先には、下船した男たちが大勢集まっていた。
くたびれた回天丸と蟠竜丸が、のっそりと背後に浮かんでいる。
その集団の中から、光にも勝るほどの速さで土方を見つけ出した。
自分の能力に驚きながら、土方の無事をしっかりと目で確かめる。
……相馬さん、どこだろう?
土方は多くの部下を従え、鉄之助に気付いてこちらに振り返った。
表情も視認できない距離だというのに……
鋭い眼光に射すくめられ、その場に引っくり返りそうになった。
「お、帰りなさい……どうしても買い物に行きたくて、でもその前に土方さんに……」
「おう、鉄に聞いたところだ。あまり人に見られるな、こっちに来い」
木の陰まで腕を引っ張られていく。
買い物へ行きたかったのは、言い訳ではなく本当のことだった。
あれ……怒ってないのかな?
また墨が付いているのかと思い、顔を触りながら土方を見上げた。
「何が欲しいんだ? 買って帰ってやる」
「い、いい……お馬だもん」
消え入るような小さな声で言った。
ずっと使っていた月経帯を、作り直すか買い替えたかったのだ。
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