第二十五章

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現代にある生理用品なんて、もちろんこの時代には存在しない。 脱脂綿もないし浅草紙をあてるだけ。 浅草紙を固定するため、お馬と呼ばれる月経帯を締めるのだ。 庶民の間では紙や古布で作ったりと、色んな工夫がされていた。 私が使っているのは、もっこ褌。 病院で使用される丁字帯や、紐パンツの形状とよく似ている。 安全性は皆無だし、唯一の対策は家に引き籠もること。 戸惑ったのは最初だけで、五年もあれば大体のことは慣れる。 ただ男に囲まれ人目を避けた生活の中、この類の話は難しかった。 生理を穢らわしいものだと、不浄視する者も少なくない時代。 「御簾紙は足りてるのか?」 「そんなの高すぎて買えない……浅草紙だよ、皆そうしてる」 御簾紙は柔らかくて丈夫で、丸めて体内に詰めることも出来る。 だけどそんな高級紙を使っているのは、文字通りの高級遊女くらいだ。 「金のことは心配するな。お前が一番良いと思ったものを使え」 「嬉しいけど贅沢だから……」 「そうか、だったら俺の為にそうしろ。鉄、悪いが相馬を呼んできてくれ」 土方は返答の余地を与えなかった。 相馬の無事に安堵しつつ、眉間に皺を作った難しい顔を見上げる。 「鉄には頼みにくかったのか?」 「もっこ褌を頼んだのに……六尺褌だった。あれなら越中褌の方がまだまし……長過ぎて着物の下がごわごわする」 「締めてみたのか?」 「…………」 何も答えずに黙って目を伏せた。 真顔で同情を示したものの、土方は不覚にも笑い声を漏らした。 「鉄は何を考えてやがる……ふっ」 「やだ……今、想像して笑った」 「何が悪いんだ、お前をどうしようと俺の勝手じゃねぇか」 「そ、そんなの誰が決めたの」 俺だと答えた土方に絶句する。 土方は木にもたれ掛かると、拗ねた顔を見て腕を強く引っ張った。 「何も気遣ってやれなくて悪かった」 「う、ううん……無事に帰って来てくれただけで十分。ありがとう」 帰って来るなんて、本来ならごく普通のことなのかもしれない。 些細なことで礼を言われ、土方は思わず肩の力を抜いて笑った。 不思議そうに土方を見上げる。 疲労の色がじわじわと、笑顔の下から浮かんでくるのが見えた。 「お前を幸せにするのは、腹を空かせるより簡単だ」 「そうだね……土方さんなら」
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