8066人が本棚に入れています
本棚に追加
現代にある生理用品なんて、もちろんこの時代には存在しない。
脱脂綿もないし浅草紙をあてるだけ。
浅草紙を固定するため、お馬と呼ばれる月経帯を締めるのだ。
庶民の間では紙や古布で作ったりと、色んな工夫がされていた。
私が使っているのは、もっこ褌。
病院で使用される丁字帯や、紐パンツの形状とよく似ている。
安全性は皆無だし、唯一の対策は家に引き籠もること。
戸惑ったのは最初だけで、五年もあれば大体のことは慣れる。
ただ男に囲まれ人目を避けた生活の中、この類の話は難しかった。
生理を穢らわしいものだと、不浄視する者も少なくない時代。
「御簾紙は足りてるのか?」
「そんなの高すぎて買えない……浅草紙だよ、皆そうしてる」
御簾紙は柔らかくて丈夫で、丸めて体内に詰めることも出来る。
だけどそんな高級紙を使っているのは、文字通りの高級遊女くらいだ。
「金のことは心配するな。お前が一番良いと思ったものを使え」
「嬉しいけど贅沢だから……」
「そうか、だったら俺の為にそうしろ。鉄、悪いが相馬を呼んできてくれ」
土方は返答の余地を与えなかった。
相馬の無事に安堵しつつ、眉間に皺を作った難しい顔を見上げる。
「鉄には頼みにくかったのか?」
「もっこ褌を頼んだのに……六尺褌だった。あれなら越中褌の方がまだまし……長過ぎて着物の下がごわごわする」
「締めてみたのか?」
「…………」
何も答えずに黙って目を伏せた。
真顔で同情を示したものの、土方は不覚にも笑い声を漏らした。
「鉄は何を考えてやがる……ふっ」
「やだ……今、想像して笑った」
「何が悪いんだ、お前をどうしようと俺の勝手じゃねぇか」
「そ、そんなの誰が決めたの」
俺だと答えた土方に絶句する。
土方は木にもたれ掛かると、拗ねた顔を見て腕を強く引っ張った。
「何も気遣ってやれなくて悪かった」
「う、ううん……無事に帰って来てくれただけで十分。ありがとう」
帰って来るなんて、本来ならごく普通のことなのかもしれない。
些細なことで礼を言われ、土方は思わず肩の力を抜いて笑った。
不思議そうに土方を見上げる。
疲労の色がじわじわと、笑顔の下から浮かんでくるのが見えた。
「お前を幸せにするのは、腹を空かせるより簡単だ」
「そうだね……土方さんなら」
最初のコメントを投稿しよう!