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何のために戻ってくるんだろう。
総督に召集命令? 報告? 援軍要請?
それらが史実であることは、前々からノートを見て知っている。
滝川充太郎率いる伝習士官隊が、援軍として駆けつけることも。
何となくこれだけじゃない気がする。
根拠とか何もないけど……
もちろん戦の結果も知っていた。
新政府軍の猛攻に耐え、土方軍は二股口を守り抜くのだ。
だけど敵の進撃を食い止められたのは、二股口だけだった。
新政府軍は松前と木古内を突破し、矢不来台場を陥落させる。
土方軍に伝えられたのは撤退命令。
矢不来が陥落したことで、退路を絶たれる恐れがあったのだ。
土方さんは戦に勝つのに……
それなのに……台場山を放棄しなくちゃいけないなんて……
第二次戦もまだだし、土方軍の撤退は二週間も先の話。
こんなことを今考えてもね……だけど亜希に聞いた話も気になる。
今から十日ほど後に、滝川充太郎が命令もなく勝手な行動に出るらしい。
伝習歩兵隊の大川正次郎が、それを咎めたことで一悶着が起きる。
土方は総督であるのに、怒りもせず二人を宥めるというのだ。
怒鳴り散らすの間違いじゃないの?
慰労するとか宥めるとか……なぜか土方が遠い存在に思えてくる。
きっとこんな風に、未来のことばかりを考えているからだろう。
いつまでもここにはいられない。
新政府軍が箱館に迫っているのだ。
私は限りなく焦っていた。
一本しかない真っ直ぐな道を、後ろ向きに全力で走るかのように。
このままだと……土方と過ごせる時間はもう一ヶ月もない。
土方の行動を考えれば、傍にいれるのはほんの数日だった。
部屋の中から土方の低い声が、途切れ途切れに聞こえてくる。
戸を開けたと同時に、鉄之助の叫声に茶をこぼしそうになった。
「どうして俺なんですかっ!!」
「俺が決めたからだ」
「す、すぐに他の者を探します! ですからどうか……俺は必ず副長の役に立ちます!!」
鉄之助は私に見向きもせず、顔を伏せて畳に額を押し付けている。
土方は視界の隅に私を捉えると、表情も変えずに言い放った。
「だったらいいか、黙って俺に従え」
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