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これが……お茶以外の何に見える?
淹れたばかりの茶を見つめ、閉まった戸に振り返った。
懇願する声に耳を澄ませ、今後のことを思い巡らす。
土方は間違いなく、鉄之助と一緒に船に乗れと言うだろう。
それでも私は何としても、箱館から離れるわけにいかなかった。
何度も馬鹿みたいに、海を往復している暇なんて無いのだ。
それにしても……鉄くんの落ちる日を、亜希が間違えるなんて……
本当は五月五日じゃなくて、明日の四月十五日だってこと?
土方と口論せずに、箱館に留まる方法なんて思いつかない。
それに頼れるような知り合いも、ここには誰一人いなかった。
大きな不安と疑問を残したまま、再び部屋に戻っていく。
そして戸を開けた瞬間、土方の怒声で湯呑みが引っくり返った。
「しつけぇんだよ、てめぇは!! さっさと荷物を纏めろ、同じことを二度も言わせるな」
「俺はまだここで……う゛っ!!」
目にも留まらぬ速さで抜刀し、土方は切先を喉元に突き付けた。
鉄之助は後方へ手をつき、持ち前の反射力で上体を反らす。
「ひぃっ、何するの! お願いだから、そんなことしないで!」
「お前は口出すんじゃねぇ! そこから動いてみろ、こいつの首を斬り落とすぞ」
ぴたりと動きを止め、幽霊のように呆然と立ち尽くす。
何なの、その台詞……人質を取った犯人の常套句だよね?
もう恐怖を通り越し、芝居でも見ているような気分だった。
違和感に包まれながら、鉄之助の様子に目を向ける。
釣られた魚みたいに、膝を付いたまま天井に顔を向けていた。
「何があっても俺は……命懸けで副長をお守りし……」
「一端の口利いてんじゃねぇぞ、この野郎! 迷惑なんだよ、そんなもんは女に言いやがれ」
「女に……でしたら副長は……」
「鉄くん、もういいの! 土方さんももうやめて!」
私のために言葉を呑み、鉄之助は為す術もなく涙を流した。
土方の絶対的な命令に、音もなく悔し涙が頬を伝っていく。
「簡単だ、答えは一つしかねぇ。命令に背けばこの場で斬り捨てる」
「副長に背くなど……ご再考頂けないのなら、従うしか……ありません」
鉄之助は泣く泣く呟いた。
刀を鞘に収める後ろ姿が、安堵したように大きく息を吐く。
それらから目を伏せた時、机の下に落ちた一通の書付を見つけた。
鉄之助でないといけない理由が、そこには書かれていた。
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