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そんなこと私にもわからない。
それに昨日から、五月五日という日付けが頭から離れなかった。
思い違いなんて誰にでもあるし、亜希はよく早合点して失敗する。
だけどそれはあくまで、新撰組に無関係であればの話だ。
亜希……どうしちゃったの?
今日はまだ四月十五日だよ。
返ってこない声が苛立たしかった。
同じように鉄之助の肩に腕を伸ばし、心配げな横顔を見上げる。
「写真の一枚くらいさ、あげればいいのにって思ったよ……死んだら二度と会えないんだ」
「……土方さん、怒ってたよね?」
「怒るどころか俺は相手にもされてない。戦死の恐れを仄めかした俺に、日々精進するって言ったんだよ? はぁ……何かさ、副長が怖いよ」
鉄之助の話を聞きながらも、いつ話を切り出そうかと考えていた。
それは私が昨日、一睡も出来なかった理由でもある。
「いつも俺は死なないって……」
「そうじゃなくて死ぬ気がしないんだよ。今までは結羽さんの様子を見て、副長の最期を計ってたけど……ところでさ、日野で何が出来るの?」
これまでのことを思うと、大量の涙がとめどなく溢れ出した。
組まれていた腕をすり抜け、正面から鉄之助を強く抱き締める。
「いつも味方でいでぐれで……うぇっ、鉄ぐんが……うっ、ううぅっ……」
「な゛っ!? 何だよ、俺を殺す気かよ!? こんなとこ副長に見られ……えっ、何?」
しゃくり上げながら口を開く。
張り付いた体を引き離し、鉄之助は私の唇に耳を近づけた。
「だから私……船には乗らない」
「ちょっ、何言ってんの? 副長、見送りに来るって言ってただろ!」
言ってるそばから、土方と相馬がこちらに向かって歩いてくる。
説明もないまま早口で伝えた。
「相馬さんと二人だけで話がしたいの! だから土方さんの気を引いてね、お願い」
「……はぁっ!?」
素っ頓狂な声を上げ、鉄之助は呆れたように天を仰いだ。
土方は悪戯に鞄を引っ張ると、硬直した体を両腕に抱き止めた。
「遅かったじゃねぇか。どうした、眠れなかったのか?」
「ううん、少し寝坊しただけ」
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