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わざと両目をこすりながら、鉄之助にこっそり視線を注いだ。
獲物を狙う猫みたいに、不自然な表情で立っている。
「ふ、副長! 少しよろしいですか?」
「結羽、俺はな……あ゛?」
早速タイミングを計り損ね、土方が間の悪さに舌打ちをした。
その隙に相馬のもとへ駆け寄っていく。
「怪我の調子はどう?」
「もう平気だよ、ありがとう」
「土方さんが親しくしてる人、誰か知らない? 例えば……商人とかさ」
「副長に感謝してる商家は多いからね。うーん、誰がいるかなぁ……大町の宿所のこと?」
この当時、五稜郭は市外にあった。
箱館市中取締である土方は、市中に宿所が用意されていた。
澄ました顔で相馬の話を聞く。
新撰組の屯所である称名寺や、活動拠点の沖之口役所から近いようだ。
宿所か……知らなかった。
初耳ではあったが、知っていたかのような口振りで尋ねた。
「そう、その宿所のことなの。土方さん、今も頻繁に使ってる?」
「いや、最近は聞かないな……結羽さんが本営にいたからじゃない? 副長に直接確かめ……」
「い、いいの! 知ってたから」
宿所はあまり使ってないのか……
私は昨晩一睡もせず、箱館に留まる方法を考えたのだ。
それを無駄にするわけにはいかない。
鉄之助の様子を見ながら、怪訝な顔をした相馬に堂々と言った。
「実は私もお世話になったの。日野に着いたらね、お礼の文をゆっくり書こうと思って」
「あっ、もしかして住所が知りたいの?」
「そう、その通り! ついでにその商家の名前も教えてくれる? 何屋さん?」
「……え?」
うるさいやらもういいなど、土方の鬱陶しそうな声が聞こえてきた。
気を引くと言っても、咄嗟のことで何も思いつかなかったのだろう。
くだらないことを聞いて土方に怒られている。
早くしなければと思い、相馬に宿所の住所と名前を促した。
「万屋丁サ、佐野専左衛門……あのさ、世話になったんだよね?」
「そうそう! ご主人のよろ、よろずやさんね。珍しい名前だから覚えてたの」
「万屋は屋号で、ご主人は佐野さんだけど」
絶句したまま相馬と見つめ合う。
笑顔で誤魔化そうとした時、土方の大きな怒鳴り声がした。
「馬鹿野郎! 茶碗を持つ方が左だ。てめぇ、どっちに刀を差してやがる」
「俺から見れば副長は右に……痛ぇっ!!」
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