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土方に拳骨を食らわされ、鉄之助が頭を抱えてうずくまった。
素早く小声で相馬に口止めをする。
「土方さんには言わないでね? 私が文を書くなんて気を遣わせちゃうでしょ」
「あぁ、そうだね……副長が呼んでるみたいだけど……」
自分を呼ぶ声に慌てて走っていく。
鉄之助は私を睨み付けると、逃げるように相馬のもとへ走った。
「鉄を当てにするんじゃねぇぞ、右も左もろくに言えやしねぇ」
「大丈夫だよ、ここまで来たんだもん」
「暫く会えねぇっつうのに、やけに元気じゃねぇか……寂しくねぇのか?」
土方は涙の痕を探しながら、あえて野暮なことを聞いた。
大丈夫だと笑顔を見せ、心の中でぶっきら棒に聞き返す。
寂しいって言えば……
このまま一緒に船に乗ってくれるの?
手のひらを返したように、従順でいる私を訝っているのだろう。
表情に出た本当の答えに、土方は愚問だったと言葉を改めた。
「何の心配もねぇ。俺が傍にいねぇで誰がお前の面倒を見るんだ」
「ありがとう……その言葉の余韻で、五分くらいは生きていけそう」
ボタンに絡まったチェーンに気付き、懐中時計に腕を伸ばす。
私のふざけた返答に、土方は瞬時に手首を掴み取った。
「俺が言ってんのはな、五分やそこらの話じゃねぇんだよ。一生の話だ、わかるか?」
「……ある人類学者が言ったの。人が最古から必要としているものは、帰りが遅いと心配してくれる人だって」
「だから心配ねぇって言ってんだよ」
土方は念を押しながら、思わず掴んでいた手に力を込めた。
構わずにもう片方の手で、土方の身なりを整えていく。
言葉だけで明日に立ち向かえるほど、私の想いは単純ではなかった。
五分ごとに時計の針を見つめ……
私は土方の帰りを、ひたすら何十年と待ち続けるだろう。
「毎日そうやって叱ってね……そして週に一度くらいは夕飯を褒めて……出来れば一ヶ月に一度は一緒に月を眺めたい」
「それがお前の願いか? 喜べ、俺にはそれ以上のことが出来る」
「そうかな、難しいよ……五分やそこらの話じゃないの、一生のことなの」
土方は目を伏せると、私の反撃に低い笑い声を漏らした。
そして力任せに腕を引っ張り、頭を抱えるように胸に掻き抱いた。
「俺を愛してると言え」
「あっ……ぐ、苦し……」
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