第二十五章

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苦しいと訴えながらも、本能的に土方の腰に抱き付いた。 意図不明な行動に土方が笑うと、私もつられて一緒に笑った。 どうしてこんな風に笑えるんだろう。 言葉を交わすのも触れられるのも、これが最後かもしれないのに。 離れたばかりの唇が重なり、未練を残しながら離れていく。 土方はそれを惜しむように、引き戻した頬へ唇を強く押し当てた。 私は信じていたのかもしれない。 土方が死なないことではなく、単純に土方の言葉を。 「言っただろ、お前の面倒は俺が見る。先のことは何も心配するな」 「うん、体には気をつけて……ごめんなさい……」 頷きながら土方の目を見つめ返す。 いつもの口調と眼差しが、私にこれまでの五年間を思わせた。 鉄之助の言うような自信とは違う。 当然というわけでもなく、そうとしかなり得ない必然的なものだった。 「何を謝るんだ」 「ううん……何でもない」 自分でもよくわからなかった。 これまでのことなのか、これからのことなのか…… 頃合いを見計らって、鉄之助と相馬が遠慮気味に歩いてくる。 引き離されるような思いで、仕方なく掴んでいた服を放した。 「そろそろ本営に戻る。彦五郎さん以外の男とは口を利くんじゃねぇぞ」 「……へ?」 「へじゃねぇんだよ、わかったか?」 わかったと返事をすると、土方は機嫌よく頭を撫でて歩いていった。 小さくなった二人の姿を見つめ、鉄之助がおもむろに口を開く。 「他の男と口を利くなってさ……お互いの心配してる点、ずれ過ぎてない?」 「土方さんと話してたら、亜希の言ってる未来が本当なのかわからなくなってくる」 未来を受け入れることが出来たら…… 何十年と土方を待たなくて済むだろう。 壊れた時計にも気付かず、悲嘆に暮れて生涯を終えていくのだ。 老いた自分の姿を想像してゾッとした。 「それで船に乗らないって本気? どうするの、知り合いもいないくせに」 「大町の宿所を訪ねようと思うの。土方さんね、今はほとんど使ってないみたいだから……」 私が五稜郭にいたからだと、鉄之助は相馬と同じことを言った。 「何で丁サなの?」 「商家ならどこでも良かったの。土方さんの評判が良いから……」 「はぁ? 副長の女ですって自己紹介するつもりかよ、やっぱり馬鹿なの?」 「出来たら土方さんの名前は使いたくない、だから……」
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