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協力して欲しいことと、出発を遅らせてもらえないかと頼んだ。
鉄之助は素早くかぶりを振った。
「俺が船長に見えるわけ? 出航の延期なんて無理。時間だって迫ってるんだ」
「……別の船は?」
「副長みたいに俺が外国船を手配できると思う? それに丁サは何度か行ったけど、ご主人とは一度も会ってない」
「…………」
鉄之助が無愛想なのは、私が相談もなく勝手に決めたからだ。
しょんぼりしていると、鉄之助がため息混じりに口を開いた。
「すぐ戻る。船長に他の船があるか聞いてくるよ、一人で待てる?」
「待てる」
それでも私をこうして心配してくれる。
私はそれに気付いていたし、本当は鉄之助と一緒にいたかった。
腰を下ろして浅草紙に金を包む。
その証拠に息を切らせ、戻って来た額には汗の粒が滲んでいた。
「親切な船長でさ、俺たちを匿う部屋まで用意してくれてたよ。副長の配慮だけど」
「……そ、それで?」
「副長の写真を見せて事情を説明したら、知り合いの船を紹介してくれた。出航まで日があるけどね、五月五日だって」
「随分遅いん……はぁ?」
「俺は命より大切なものを副長から預かってるんだ。得体も知れない船になんて乗れない」
日付けに呆然としていると、いきなり顔の前で手を鳴らされた。
我に返って懐から金を取り出す。
「ご、ごめん……先に渡しておくね、このお金は返さなくていいから。持ってて?」
「いい、俺一人ならどうにかなる。もう結羽さんの面倒を見なくて済むしね」
「何かあった時どうするの? 後悔するのは私なんだからね」
胸ポケットへ強引に金を突っ込む。
生意気な口を利いていた矢先、鉄之助が悔しそうに呟いた。
「あれだけ協力するって言ったのに、結局は口だけだ……本当にごめん」
「命より大切なもの、預かってるんでしょ?」
「まぁね、目の前にもいるけど。それこそ何かあったら俺は死刑だよ」
何度も聞いた台詞が可笑しかった。
吹き出した私を見て、鉄之助も笑い出す。
鉄之助とはこれが最後、恐らくもう二度と会えないだろう。
「今までありがとう……元気でね」
最後みたいな言い方をするなと、鉄之助は私の肩を突き飛ばした。
だから私は執念深く言い放ち、拳で上腕を殴り返した。
「前に貸した二両は返してね」
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