第二十五章

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帯に垂れた根付を外し、じっくりと梅の花を覗き込む。 土方と離れている時も、肌身離さず宝のように持っていた根付。 お守りの口をそっと開き、ダイヤの存在を確認した。 これを換金すれば物凄い金額になる。 だけど何より凄いのは、これを私にくれたかよだと思った。 折り畳んだ手紙の中に、お守りの付いた根付を挟み込む。 この手紙には…… 私が死んだ時のことが書いてある。 かよのくれたお守りの中には、沢山の夢が詰まっていたこと。 そのうちの一つだけでも、どうか願いを叶えて欲しいということ。 金剛石を換金した一部を、土方に根付と一緒に渡して欲しいと書いた。 もし二人ともこの世にいなければ、全てを沖田に託することも。 私に出来ることは、かよにダイヤを返して土方に金を残すことだけ。 泣きそうなほどに情けなかった。 ちらつく土方の面影が、寝ても覚めても頭から離れない。 近くにいるのに会えず、残された時間に気が狂いそうだった。 土方が二股から帰陣したのは昨日。 歴史通りなら五稜郭に戻り、榎本や松平と会議を行ったはず。 待ち伏せをして、遠くから見るだけなら…… ストーカー思考に及んだ時、佐野が部屋にやって来た。 「手が空いてたらでいいんだけど……昨日の握り飯、今日も頼めないかな? 凄く美味かったみたいでね」 「……普通のですけど?」 昨日は別に頼まれたわけではない。 佐野から女中を探していると聞き、代わりに飯を握ったのだ。 「私で良ければ……夜食ですよね? 五分くらいで出来ますけど」 「いや、晩飯だよ」 修行中のお坊さんかな? 佐野と勝手場へ移動すると、刻んだ沢庵を飯で包み込んだ。 皿に二切れの沢庵を添え、さっと後片づけを始める。 すると僅か数分後、何かを思い出したように佐野が戻ってきた。 「少しいいかな?」 「はい、何でしょう?」 「握り飯を作った人に挨拶がしたいと言われてね……少し来てもらえる?」 絶対に嫌だと心の中で即答する。 だけど世話になっている以上、断ることが出来なかった。 挨拶って……おにぎりですけど? 廊下へ正座をすると同時に、佐野がすっと障子戸を開けた。 あれっ……食べてない…… 目に飛び込んだのは、皿の上で真っ二つに割れた握り飯。 「あ、あの……何かお気に召さな……」
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