第二十六章

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-----現代 11月 日にちが変わって数分後。 目が覚めて携帯を開いた。 はぁ……まだこんな時間? ふと眠りから覚めた時、焦燥感に駆られる時間帯がある。 まさにその時刻が今だった。 二度寝に挑んでいるうちに、悲しくて泣きそうになってくる。 得体の知れない焦りに出口はない。 じっと夜明けを待つか、何かやるべきことを見つけるしかないのだ。 だけど今夜はそうはならなかった。 悠祐から届いていたメールを開く。 起きているかの確認と、連絡を待っているという簡単な内容。 すぐに返信しようとし、自分のタイミングの悪さに指を止めた。 受信からすでに1時間が過ぎている。 普段より数倍もの広い迷路に、閉じ込められたような気分だった。 音を立てずに携帯を閉じると、悄然と肩を落として部屋を出た。 玄関の方から物音が聞こえ、急いで階段を下りていく。 「お父さん……どこに行くの?」 「タバコだ。起きてたのか?」 「さっき目が覚めたの……私も一緒に行く。いいでしょ?」 頭を過ぎったのは、数ヶ月前の父がいなくなった日のこと。 私の記憶ではもう、4年も前のことだというのに…… 返事も聞かずに慌てて靴を履く。 父は玄関を上がると、母のカーディガンを持って戻って来た。 「歩いていくから体を冷やすな」 「うん、ありがとう」 家からコンビニまで5分ほど。 父の隣が妙に居心地悪く、わざと速度を落として歩いた。 買い物カゴを掴んだ父の横を、すたすたと通り過ぎていく。 紙パックの野菜ジュースをカゴに入れ、本棚の前に移動した。 現在を彩った様々な情報。 毎月買っていた雑誌さえ、私はまだ手にすることが出来なかった。 ガラスに映った虚けた顔に、父が黙ってレジ袋を差し出す。 帰り道も同様に、のろのろと無言のまま父の背後を歩いていた。 …………ん? 袋の中を覗き込むと、買った覚えのないお菓子が入っていた。 「お父さん、このラムネ……懐かしい」 「それ、うるさいんだよな……日曜の早朝から耳元でピーピー鳴らされて、お前に起こされたんだよ」 火の点いていない煙草をくわえ、父はライターを弄んで言った。 笛が吹ける8個入りのラムネに、おまけのオモチャがついている。 お父さんが覚えてるなんてね…… オモチャが気に入るまで、馬鹿みたいに何度も買えとせがんだのだ。 幼い頃の記憶を、誰かと共有できるなんて素晴らしいことだと思う。
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