第二十六章

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ベッドに腰を下ろし、無意識にクローゼットへ目を向ける。 起きて30分もしないうちに、何もかもがどうでもよく思えてきた。 叔父のことや悠祐の前の女、そして要領の悪い母のことも。 投げやりになったわけではない。 あの時に戻れたらという仮想は、答えのない堂々巡りだった。 高杉と出逢うこともなく、新撰組や沖田には無関心で…… 結羽とは違う高校に進学し、両親は別人で叔父もいなくて…… やり直したい過去なんて、少なからず誰にでもあるだろう。 だけどいくら過去を遡っても、結局は納得なんて出来ないのだ。 道を誤ったその先で、多くのものを手にしてきたというのに。 内側から腹を蹴られると、ラムネに付いていた箱を振り鳴らした。 蹴り返してくる可愛い足と、退屈で何の面白みもないオモチャ。 どちらも私にとって大切なものだった。 時間は止められないし、幼い日には二度と戻れなかった。 自分の愚かさにため息をつく。 ……過去は変えるべきではないのだ。 視線の先にあるクローゼット。 島田箱にしまったまま、あの日から結羽の日記には触れていない。 そして悠祐も私も互いに、新撰組に関することは口にしなかった。 地雷でも避けるかのように。 例えようもないほどに辛かった。 沖田を救えたと知った直後、崖へ突き落とされたような気分だった。 ……土方は死んだのだ。 歴史は変わらなかったのだろう。 気を引くかのように、ちらちらと視界に入る光が鬱陶しかった。 切り忘れたパソコンが、スクリーンセーバーに変わっている。 マウスを掴み取った時、足元にあった資料につまずいた。 印刷された箱館戦争の文字と、ディスプレイに浮かんだ沖田の名前。 歴史が変わっていないなんて…… 現代へ戻ってきた時点で、真っ先にわかっていたことなのに。 目にしたタスクバーの時刻、1時前。 ひりつくような焦燥感を覚え、思わず携帯を手繰り寄せた。 忙しなく開閉を繰り返し、髪を縛ったゴムを乱暴に解く。 迷った末にメールを返信した直後、手の中で携帯が震えた。 驚いて落としかけた携帯を、慌てて耳に押し当てる。 「わ、私……亜希だけど……」 「わかってるよ、俺がかけたから。起きてたんだ、何してたの?」 「……あっ、会いたい」 「…………」
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