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気持ちが先走って早口になる。
悠祐は一拍置いてから、声の調子を探りつつ返事をした。
「嬉しいね、迎えに行くよ。何時?」
「は、8時……9時は? 早い?」
今すぐ……そう言いたいのを我慢し、無難な時間を選んだ。
寝ていないのかと聞かれ、目が覚めたのだと正直に答える。
「……じゃあ9時に迎えに行くよ。起きて何してたの?」
「何にも。過ぎたことばっかり考えて焦ってた……やることなんて何にも無いのにさ、バカだと思わない?」
「あるだろ。俺のメール見てないの? 起きてるなら返事ぐらいすぐに返せよ」
悠祐は怒った口調で私を責めた。
そんな優しさの裏返しに、虚勢のメッキが一気に剥がされていく。
「そうだね、ごめん……こんな時間に何かを見つけるなんて、ただでさえ難しいのに……どうしても眠れないの、寂しくて堪らない」
「俺も寂しいよ、お前が何も話してくれなくなったから」
「…………」
「わかってるんでしょ? お前が何に焦ってるのか、俺が代わりに言ってやろうか?」
悠祐が何のことを言っているのか、私にもよくわかっていた。
沈黙した私に、電話の向こうで悠祐が小さなため息をつく。
「箱館を脱出した鉄之助の行動……3通りある諸説の中から、お前の考えを1分以内にまとめること」
「…………は?」
「証明できないと正解とは言えないからね。お前なら簡単に……あっ、難し過ぎたかな。ごめんね」
悠祐はわざと意地悪な言い方をした。
叩きつけられた挑戦状が、私の壁を一瞬にして崩壊させる。
「3通りって……あのね、そもそも問題が間違っ……」
「答えは会ってから聞くよ。それ以外のことは何も考えなくていいから」
4月15日と5月5日の2通りでしょ?
無断で人の心に火をつけたまま、悠祐は話を終わらせようとした。
「8時に迎えに行くから」
「わ、わかった! すぐに用意す……ふふっ、先走っちゃった! 8時ね!」
「俺、10分で家出れるよ?」
「……ほ、本当? 嬉しい、待ってる!」
思わず本音を漏らしたのは、私じゃなく悠祐の方だった。
通話を終えた携帯で時間を確認し、オモチャの箱を開ける。
無駄に切り替わった1分と、全身緑色をした小さな恐竜。
急にどういうわけか、何もかもが待ち遠しく感じられた。
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