第二十六章

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明日の天気なんかどうでもいい。 自信たっぷりに答えると、悠祐はハンドルにもたれて笑い出した。 「おい……せこいな、お前」 「せこくないよ、私の勝ち」 「何と勝負してるの? それなら3つ目の日付けは? 言えないならお前の負け」 「3つ目なんてないよ、どこにも書いてないもん! 悠くんこそ正解を言えるの? 証明できるんだよね?」 振り返った悠祐の顔を、遠くの街灯がひっそりと照らした。 俺も寂しいと……電話で言っていた声を思い出す。 私に同情した言葉ではない。 ムキになった私の表情を見て、悠祐は本当に楽しそうに笑った。 「お前の考えは?」 「もともとは4月15日だったと思う……ちょうどその頃、土方さんは二股から五稜郭に戻って来てるし」 「そうだね」 「土方さんは鉄之助に、2本の刀と品物を渡したの。大東屋で換金して旅費にする為だよ」 いちいち説明しなくても、そんなことは悠祐だって知っている。 それでも私は自分の見解を続けた。 島田魁が数年後に、大東屋へ鉄之助のことを問い合わせている。 4月15日に箱館を出発し、ここへ来たと大東屋が言っているのだ。 「数年も経ってるんだよ? 普通さ、客が来た日付けなんて覚えてないよ。土方さん……鉄之助の為に、日付け入りの手紙を持たせたんじゃないかな?」 「事前に書いたとは思わない?」 「それはない……土方さんは14日の朝6時から7時頃まで、二股にいたんだもん」 「面白いね」 4月15日ではないと考えられる理由は、この他にも色々とあった。 いくらなんでも鉄之助が、日野まで3ヶ月もかかるとは思えない。 鉄之助は船内で土方の死を知ったと、佐藤家で自ら語っている。 土方の最期は5月11日だ。 「だから私、鉄之助が船に乗るのは5月5日だって……結羽にそう伝えたの」 「そっか……答えは5月5日?」 島田箱を抱き締めた姿を見て、悠祐は少し残念そうに聞いた。 一般的に知られている日付けは、間違いなく2通りだけど…… 悠祐の出題の仕方から推測すれば、答えは一つに絞られる。 「答えは3つ目。どちらでもない日」 「日付けも言えないのに?」 「そんな残念そうな顔しないでよ、証明なら出来るし。ほら! 結羽の日記」 どうせ5月5日だって書いてるよ。 悠祐の思惑にはまっているとも知らず、島田箱を差し出した。 「俺が残念なのは、お前がそれを確かめてこなかったことだよ」 「……え?」
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