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二人で川に沿って土手を歩いていた。
街灯の少ない通り道を、車がゆっくりと同じ速度でついてくる。
亜希は気にも留めず、嬉しそうに鞄から手鏡を取り出した。
命の次に大切な物だと大げさに話し出す。
「結羽にだけ見せてあげる……」
「え……何? 鏡?」
話に耳を傾けつつ、河原で花火をしているグループに目を向けていた。
「ねぇ、どこまで行くの? 送って行こうか?」
「……いいです」
「いいじゃん、少しくらい乗れよっ!」
亜希は無愛想に振り返りもせず、窓から顔を出した男に断った。
すると突然、車のドアが開いて降りてきた男に鞄を引っ張られた。
「やめてよ! 結羽、逃げてっ!!」
「誰かー!! 助けてっ!」
やだ……怖いっ!!
このままだと、河原に落ちちゃうよ!
亜希が男に腕を掴まれ、車の後部座席に引き摺られていく。
大声で助けを呼びながら、咄嗟に持っていた鞄で男に攻撃した。
「きゃあぁぁああ……!!」
亜希の服を掴んだと思った瞬間、土手から足を踏み外した。
不安定な視界が、体ごと底のない暗闇へと落ちていった。
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