序章

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 『全ての神がこの10月に出雲大社に集まる』等等、そんな話をよく耳にするが、そんな事は彼には関係なかった。 というより、霊的な話題、スピリチュアル関係の話には興味が全くないし、信じていないのだ。  彼が住んでいるY町は田畑が多く、緑豊かな田舎に分類される。 しかし、最近はその田畑を使う人が減ったのか、近々アスファルトを敷いて大規模な工事をするという。 流れゆく時代に感慨深いため息すら漏れるこの不景気、田舎は物言わず頑張っていると言う訳か。  そんな田舎の古びた一軒家からもそもそと姿を現したのは一人の青年。 日本人の証である黒い髪に、男らしさの権化“ごんげ”であるスポーツ刈り。 顔つきからは大人しいというより先ず、『柄が悪い』と思われてしまうだろう。  茶色の切れ長の瞳は、他者を威圧する重みがある。 だが、そんな怖い印象は彼自身のフランクな対応により撤回されるのだが、まずそんな印象の者に話しかけようなどとは思わないだろう。  雑草が程よく生い茂っている玄関先で軽く伸び、大きな欠伸をしながら厚めのジャンパーを身に纏い、更には手袋を装備してこの肌寒さに勝ったつもりでいた。 「うお……耳寒っ……」  しかし、どうやらチェックが甘かったようだ。 再び家に戻り、ニット帽等で耳を寒さから守る事が出来るのだが、青年は『面倒臭い』との理由でスルーしてしまう。  そんな青年、丹下 大“たんげ ひろし”は住所確定無職、所謂ニートである。 平均より少し低めの成績で高校を卒業し、とある工場に就職。そこで四年勤めたのだが、上司とのトラブルが原因で退職してしまった。 今や地道に溜めてきた給料と退職金の貯金のみが彼の命の綱である。 本人曰“いわ”く、「我慢してりゃよかったんだけどなぁ」と、後悔している。  大の両親は大阪におり、仕送りを頼めば嫌々ながらもしてくれるだろうが面倒臭いのでしない。 との事から、大の生活はそこまで切羽詰っていないと推測出来る。
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