序章

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 本能が、そう大の脳味噌に語りかけてきた。 その瞬間、全身からねっとりとした冷や汗が噴出してきた。  これが今まで馬鹿にしていたって噂の霊体験か?否、違う。断じて違う。 きっと猫が悪さをしているんだ、猫ってそういう生き物だしな。 ほら、すぐそこに茂みがある。きっとそこで猫が俺を驚かそうと企んでやがるんだ。  と、大はそう思う事で今感じている恐怖感を紛らわせる。 数十秒と気を紛らわせる事が出来たなら、それで十分。 再び気持ちが恐怖に染まるまでにその場から逃げればいいだけの事。  但し帰宅時の事は考えない事が前提だ。  大はくるりと踵“きびす”を返し、ありったけの力を足に込め、ちょっぴり都会色になってきた市の中心部にへと走った。     ■     ■ 「新鮮なーきゅうりがー、なーんと三本48円だよー!」  大が足を止めたのは丁度友人が手伝っているという八百屋の前だった。 だが、足が止まったのは『此処が友人の家だ』という事ではなく、『きゅうりの値段の安さ』に足が止まったのだ。  退職金と今までの貯蓄のみで過ごす大は出来るだけそれらを長持ちさせる為に、仕事を辞めてから三日後に心を鬼にして『節約』に励んでいた。 それは第三者から見れば『節約星出身の節約魔神に心を売った』と言わしめる程の節約っぷりで、部屋の電気は電球の周りをアルミホイルで囲み、明かりを拡散させたり等、一ヶ月どころか二ヶ月程一万円生活が出来そうな勢いだ。  少し遅れたが、大の友人の名は伊藤 聡史“いとう さとし”。 幼稚園からの友人、即ち幼馴染であり――大の親友でもある。 性格は大と違い、至って真面目であるが、真面目だけでなくユーモアも取り込まれた好青年である。
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