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「先生、神山君がトイレに行きたいみたいです」
な、ん、だ、と?
全身から一気に血の気が引いた。
思考停止。
心は無になって、僕は宇宙を全裸で旅をする。
いろんな星を巡り、出会いと涙の別れを幾度も繰り返した。
淡い恋愛も経験した。
悪党とも死闘を繰り広げたっけな全裸で。
もちろん裸で地球に帰還した僕はこう思った。
宇宙は寒いな、と。
ふと気がつくと、周囲の空気が一変していた。
向けられた侮蔑したような笑みが僕を包囲していたのだ。
こいつらは一体なんなんだ?
僕はただ、腹が痛いだけなんだ!
切羽詰まった顔に脂汗を滲ませて尻を押さえているのは悪なんですか!?
どうなんですか?
しんどそうとか、可哀想とか思わないんですか?
何がいけない!
休憩時間に済ましておけ?
そんなに都合よく出し入れできるか!!
あ、入れはしないか。
まあいい。
親切に似たお節介に悦に入っている隣も、薄ら笑いの級友も、迷惑顔の教師も、今や悪魔にしか見えない。
許可をも得ずに僕は教室を飛び出した。
この日から、僕が授業中にトイレに行く事が習慣化した。
さらに、ついたあだ名が『トイレの神山』だった。
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