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その夜は寝苦しくて,三津はなかなか寝付けずにいた。
京の夏は蒸し暑い…。
「暑い…。」
寝間着の胸元を豪快に開き,団扇で風を送り込むが,肌に当たるのは生温い空気。
「アカン…水でも飲も…。」
だるい体を起こすと,はだけた胸元を少しだけ整えてから一階の台所へ向かった。
湯呑み一杯の水をぐっと飲み干し,
「ふぅ…」
と小さく息を吐いた。
もう一度寝る努力をしてみるかと,大きな欠伸を一つ。
くるりと踵を返した。
ドンっと背後で音がした。
何かが壁にぶつかったような音に振り返る。
「何…?」
真っ暗闇の中を手で探りながら,勝手口を目指した。
恐怖と好奇心が混じって,三津の心臓は激しく脈打った。
胸の高鳴りをそのままに,ゆっくりと戸を開く。
そっと開いた戸の隙間から,ひょいと顔を出してみた。
暗闇に目を凝らしてみると,壁にもたれかかり,肩で息をする男の姿が見て取れた。
「あのぉ…。」
自分でも不思議なくらい自然に声をかけていた。
静寂に包まれた夏の夜の出来事。
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