1 全ての始まり

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その夜は寝苦しくて,三津はなかなか寝付けずにいた。 京の夏は蒸し暑い…。 「暑い…。」 寝間着の胸元を豪快に開き,団扇で風を送り込むが,肌に当たるのは生温い空気。 「アカン…水でも飲も…。」 だるい体を起こすと,はだけた胸元を少しだけ整えてから一階の台所へ向かった。 湯呑み一杯の水をぐっと飲み干し, 「ふぅ…」 と小さく息を吐いた。 もう一度寝る努力をしてみるかと,大きな欠伸を一つ。 くるりと踵を返した。 ドンっと背後で音がした。 何かが壁にぶつかったような音に振り返る。 「何…?」 真っ暗闇の中を手で探りながら,勝手口を目指した。 恐怖と好奇心が混じって,三津の心臓は激しく脈打った。 胸の高鳴りをそのままに,ゆっくりと戸を開く。 そっと開いた戸の隙間から,ひょいと顔を出してみた。 暗闇に目を凝らしてみると,壁にもたれかかり,肩で息をする男の姿が見て取れた。 「あのぉ…。」 自分でも不思議なくらい自然に声をかけていた。 静寂に包まれた夏の夜の出来事。
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