2 狩られかけた男

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壁にもたれ掛かった男に声をかけると相手は豆鉄砲を喰った様な顔で三津を見た。 「大丈夫ですか?」 他に誰もいないかきょろきょろ周りを見渡してから思い切って外に出た。 「君,正気?」 少々はだけた寝間着姿で何の迷いもなく近寄って来る三津に戸惑いを隠せない。 わざわざこんな格好で出て来るとは…。と思いつつ口元は自然と緩んでいた。 悲しいかな男の性だ。 三津はそんな事など気にも留めずしげしげと男の様子を観察した。 そして男が押さえる腕に血が滲んでいるのに気付き目を見開いた。 「怪我してるやないですか!手当てせんと…。」 三津は男を担ごうと脇に体を滑り込ませた。 「何する気?」 自分の体を担ぎ,強引に勝手口から引きずり込もうとする変な少女にうろたえた。 「だから手当てです。朝その辺で死体になって転がってる方が嫌ですもん。」 いいから静かにしてと見ず知らずの大人の男を一喝し,中に引きずり込んだ。 三津は音を立てないように細心の注意を払って二階へ連れて上がった。 「少し待ってて下さいね。」 男を壁にもたれさせて座らせると,いそいそと台所に向かった。 お椀に消毒用のお酒を,湯呑みと桶に水を淹れてそれらを器用に持つと男の待つ二階へ駆け上がった。 もちろん忍び足で。 「お待たせしました。」 とりあえずどうぞと男に湯呑みを持たせて早速手当てに取りかかった。 『飲めと言う事だろうか…?』 三津と湯呑みを交互に見てから一気に水を飲み干した。 男は手際良く手当てを施す手元と緩んだ寝間着からちらちら覗く胸元を眺めつつ,静かにされるがままだった。 はてさてこの娘には警戒心は無いのだろうか? 「普通はこんな怪しい男を部屋に上げたりはしないけど。」 男は独り言のように呟いた。 「これが夢か現か分かってないですからねぇ。普通やないんでしょうね。」 三津もまた独り言のように呟いてくすっと笑った。 それなら仕方ないと男もくすっと笑った。 『あ…笑った。』 三津は下から覗き込むように上目でその表情を映した。 暗くて気付かなかったがよく見れば男前ではないか。
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