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怪我ばかりに気を取られ全く見ていなかったその顔。
二重瞼の形のいい目に通った鼻筋と凛々しい口元で見事に整った顔立ち。
俗に言う色男とはこういう人なのかと一人で納得した。
整った顔から手元に視線を戻し
「可愛らしく笑いはるんですね。」
と話かけると
「君も十分可愛いよ?」
凛々しい口元が笑みを浮かべ,さらりと恥ずかしくなる台詞を零した。
三津は顔だけが急激に熱くなるのを感じ俯いたまま目を泳がせた。
「なっ何で斬られたんですか?誰にやられたんです?」
反応に困ってあわあわしながら質問を投げかけてみたが男は黙り込んで苦笑いを浮かべた。
そのまましばしの沈黙の後,ただ苦笑いを浮かべていた男が口を開いた。
「壬生浪士に出会ってね。」
壬生浪士…。
京の町では人斬り集団として名を馳せている浪士組だ。
「いきなり斬られたんですか?」
この人も志士狩りに遭ったのか。
自分の住む町の治安の悪さに顔をしかめていると男は話を続けた。
「酒を飲み交わした帰りだったんだけど…。
彼らは私の事が相当嫌いみたいだね。だいぶしつこく追い回されたよ。危うく狩られるところだったね。」
男はさも他人事のように言ってのけ苦笑いから一転,何だか余裕の笑みまで浮かべている。
「……少し狩られてますけど?」
手当てをし終えた左腕を指差しながら込み上げてくる笑いに耐えた。
男は少し恥ずかしそうに
「…そうだね。」
と呟いて頭を掻いた。
和やかに二人で笑い合った。
「…って笑ってる場合ちゃいますよ!そんな人らに追われてて家まで帰れるんですか?」
何て暢気な人なんだ…。自分の命が危ないと言うのに…。
三津の方が頭を抱えて唸り声を上げた。
男からすれば何故見ず知らずの自分の身を案じ,世話をしてくれるのか不思議で仕方ない。
「大丈夫,彼らもねぐらに戻る頃だろう。」
心配そうな眼差しを向けてくる三津を安心させようと優しく頭を撫でてみた。
「もし見つかったら?」
不安げに三津が問うと
「逃げるのは得意だよ。」
と男は自信たっぷりに胸を張った。
『逃げ切れんかったから斬られたんじゃ……。』
なんて野暮な事は胸にしまい,頭に被さった温かみのある手の感触に目を細めた。
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