心は

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 前、告白して振られた時、かれに言われた。 『お前さ、他にも良い奴いるだろ。俺よりも優しくて、誠実で、穏やかで、お前を幸せにしてくれそうな奴。俺じゃなくて。何で、よりによって俺なんだ?』  その時、私が答えたのは何だったろう。とにかく必死だったから、よく覚えていないけれど。今確かに言えるのは。 ――そんなの、私が知りたい。 君より優しくて、誠実で、穏やかで、格好いい人はいくらでもいると思う。けれど、いつも暴言ばっかで皮肉ばっかで嫌味ばっかで厳しくて、何度も泣かされているのに。 やっぱり好きなんだもの。 好きになってしまったんだもの、仕方ないじゃない。 だから、開き直って私はかれにしがみつく。 みっともなくても、愚かしくても。  何度目か数えきれないほどの、彼の拒絶に落ち込みながら教室に戻る。借りた本が異常に重く感じる。溜め息を落として、とぼとぼと歩いていると熱い掌に肩を叩かれた。  あれ、デジャヴ、と振り返ると、そこには。 「どうした、今にも川に飛び込みそうな顔してるぞ」  先日、私を自殺志願者と間違えた例の彼が心配そうに立っていた。
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